繰延税金資産の計上②

前回繰延税金資産の計上については回収可能性の観点から特に検討しないといけない旨を記載しました。これについて、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針という、回収可能性についての指針があるのですが、当該指針では繰延税金資産の計上において、スケジューリングの点や、収益力等の点からの取り扱いについて記載されています。

ここで、当該指針では収益力による課税所得の発生可能性から、分類が1から5まで定められており、例えば分類1であれば繰延税金資産は原則全額回収可能と判断されます。一方で分類5になると「原則として繰延税金資産の回収可能性はないものとする。」と記載されています。

この点、繰延税金資産の回収可能性は原則としてないものとされるのは、分類5については課税所得の発生が見込めないため、将来の税金削減効果は無いでしょという事ですが、前回触れた繰延税金負債の計上がある場合はどうでしょうか。繰延税金負債については、特殊な場合を除き計上が必要となりますが、計上された繰延税金負債のうち、資産除去資産部分は定期的に会計上償却されて、その償却に対して税務上は損金不算入にしますので、資産除去資産についてはスケジューリングが可能になり、将来少なくとも当該取崩しに関しては課税所得が発生する事になると思います。

つまり、分類5のような会社でも、資産除去資産の取崩しにより発生する分の課税所得見合いのスケジューリング可能な繰延税金資産は計上可能で、もしそのような将来減算一時差異が無かったとしても、分類5の会社はそれなりに繰越欠損を有するはずなので、最低でも繰越欠損の期限及び使用制限を考慮したうえでの繰延税金資産については計上可能だと考えます。

繰延税金資産の計上①

繰延税金資産、繰延税金負債という勘定科目がありますが、これは税効果会計に係る会計基準に基づいて、繰延税金資産は一種の税金の前払の性質を持つもので、繰延税金負債は逆に税金の後払いの性質のを持つものです。

例えば賞与引当金についてみると、会計上は費用処理されたものを税務上は否認処理し、確定債務となった段階で税務上も損金計上しますので、会計上と税務上の費用計上のタイミングが異なり、有税処理された賞与引当金は後から税務上損金となって、税金を削減する効果は遅れてやってきます。そこで、賞与引当金を会計上で計上する段階で将来の税金削減効果を見越して繰延税金資産を計上するのですが、当分課税所得が発生する見込みが全く無い会社等は実際税金削減効果を有しない、といった事も考えられるので繰延税金資産の計上は特に回収可能性の観点から、その計上について検討を要する事になります。

一方、繰延税金負債は基本的に税務上の所得となる時期が会計より遅れてやってくるので、有価証券報告書の税効果注記の明細を見ても、海外の子会社を有していたりしなければ特にですが、明細の項目数としては繰延税金資産の明細と比べても少ない事がほとんどのはずです。

これは、会計上は保守主義の原則により、費用計上するタイミングが税務上よりも早い事が多いのが大きな要因かと思います。

債務確定主義

例えば給与が毎月15日締めであるような場合には、決算処理において16日~月末分のいわゆる帳端給与を未払費用として費用計上します。税務上これは債務確定主義に基づき計上されていることになります。

債務確定主義とは、償却費以外の費用で事業年度終了の日までに債務が確定しているものについて当該事業年度に損金算入が認められるという事で、①当該事業年度終了の日までに債務が成立しており、②その債務について当該事業年度終了の日までに具体的給付をすべき原因が発生しており、③当該事業年度終了の日までに金額を合理的に算定できることという3要件(基本通達2-2-12)に該当する必要があります。上記の未払給与でいえば、月末まで勤務実績があるので締日が到来せずとも債務が確定しており、なおかつ勤務実績という給付原因も発生しており、日割り等で合理的に算定できるため損金算入という事です。

一方で企業会計上は保守主義の原則という原則等があるため、債務確定を待たずに見積りで費用計上する事が必要になるケースがあります。例えば賞与引当金ですが、一般的に賞与は支給日までに辞めてしまうと支給しないでしょうし、業績が悪化した場合等は積立額を急に減らすケースも当然あります。ですので債務として確定していないので税務上は金額が実際に確定するまでは費用として計上出来ません。但し会計上は上記の保守主義の原則や適切な期間損益計算が求められる事から、債務として確定せずとも既に発生した労働の対価部分として見込みで引当計上する必要があるのです。

結果的に賞与引当金については税務の所得計算と会計の利益計算で差異が生ずる事になり、調整が必要になる事になります。

のれんの一時償却

のれんとはざっくりいえば例えば買収した企業があったとして、その企業の時価に置き直した純資産に対して払ったお金の差額です。払ったお金の方が多ければ正ののれんとなり償却計算の上費用化され、払ったお金の方が少なければ負ののれんとして発生した事業年度において、原則特別利益で処理されます。

そして、正ののれんは以前御紹介しました減損会計基準により、該当すれば減損処理が必要となりますが、今回は減損ではなく一時償却です。しかも一時償却された時の表示はどんなされ方かという点についてです。多くの方にとってどうでも良い内容となっていますが、まず一時償却とは何かというと、これもざっくりいうと、単体決算上で、例えば取得した子会社の株式について、その子会社の財政状態が悪化して実質の価額が著しく低下した時は、回復可能性の裏付けが無いと株式を一定程度損失処理しないといけないというルールがあるのですが、その損失処理した残額の株式簿価と連結決算上での親会社が持っている子会社資本+のれんの簿価とを比べた時に、損失処理した株式簿価の方が金額小さければ、取得時に見込まれた超過収益力は無いですよね、とその金額まで償却(一時償却)しないとだめですよというルールです。

そしてこの一時償却はどのような開示のされ方をするのかですが、そもそも処理の性質上臨時かつ巨額になる事が想定されるため、基本的に特別損失になるかと思うのですが、注記を見てみると、その中でも「のれん償却額」として開示している会社が多いです。(そりゃそうか。)ただ一部減損損失に含めている会社もありました。

厚生年金基金

厚生年金基金は、老齢厚生年金の給付を基金が代行しつつ、さらに基金独自の給付を上乗せし、加入員の受け取れる年金額を増やすことで、充実した生活保障を達成することを目的として運営されていました。しかし、2020年3月1日現在で存続厚生年金基金は8つとなり、ほとんどの厚生年金基金は解散しています。

平成26年4月に施行された改正厚生年金保険法において、施行日以後の新設が認められなくなり、施行日から5年後以後以降は、代行資産保全の観点から基準を下回る基金については、厚生労働大臣が解散命令を発動できるようにもなりました。

元々、運用により積立金を確保しつつ上乗せ給付を支給するという前提が、経済情勢等から出来ない基金が多くなり、いわゆる厚生年金部分の代行割れが問題となっての事のようです。

解散後の厚生年金基金については、厚生年金基金の給付代行をしない企業年金基金への積立金の移行についての特例が認められており、代行返上して移行している基金も多いようです。

確定給付企業年金制度を採用しており、複数事業主により設立された基金に加入している場合で、自社の拠出に対応する年金資産の額を合理的に計算することができないときには拠出時に費用計上、そうでない場合は退職給付会計基準に基づき、確定給付制度の会計処理を行います。税務上はいずれの場合も拠出時に損金算入となります。

固定資産の減損

日本の多くの企業では関係してこないので、?な言葉かも知れませんが、固定資産の減損に係る会計基準という基準があり、かなりざっくりいうと儲けを生まない、時価を鑑みても簿価より大分低い等の事業用の固定資産や土地は帳簿上の価値が無いので損失処理しましょうという基準です。

プロセスとしては、まずその資産に減損の兆候があるかを検討し、兆候がある場合は減損の認識、測定といった具合に進み、帳簿価額と回収可能価額との差額を減損損失として損失計上するという形になります。

ここで、まず兆候があるか無いかという分岐点なのですが、兆候の1つとして概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位である資産又は資産グループの営業損益や営業キャッシュ・フローが継続してマイナスとなっているかマイナスとなる見込みである場合があります。この点、営業損益か営業キャッシュ・フローかで結構影響が変わってきます。

営業損益といえば、当然検討対象となっている資産の減価償却が加味されていますが、営業キャッシュ・フローといえば減価償却費はキャッシュアウトではないため、加味されない事になります。

結果として、営業利益がマイナスでないという事は減価償却費について回収出来ているという事なので、そのままプラスが続けば対象資産の償却期間で投資回収は出来るという事に、一方、営業キャッシュ・フローがマイナスでないという事はプラスが続いてもそのプラス金額次第で償却期間では投資回収出来ない可能性があるので、当然ハードルに差がある事になります。

適用指針では、80項で「管理会計上、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」だけを把握している企業の場合には、「営業活動から生ずるキャッシュ・フロー」によって減損の兆候を把握することも可能であることを示しているものと解される。」と記載がありますが、私の経験不足かも知れませんが、そんな会社は圧倒的に少ないように感じます。

ただ一方で、「営業損益や営業キャッシュ・フローが」と記載があるために、兆候の把握に営業キャッシュ・フローを用いる会社もそこそこあるような気がします。(あくまで個人の感覚です。)

監査上の留意事項(コロナ関連)

日本公認会計士協会から「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項」が現時点でその3まで出されています。4月15日に発出されたその2では、会計上の見積りに関して記載されています。今回はこれについて触れたいと思います。

企業会計において会計上の見積りは避けて通れないものであり、例えば減損会計や税効果会計等は多分に見積の要素が強いものとなります。この会計上の見積りは、ある一定の仮定に基づいて行う事が必要となるのですが、その仮定の設定が平常時では無いこの御時世においては多分に困難が伴う事になります。ざっくりしたところで、将来の業績予想の合理性が一番分かりやすいかも知れません。将来の企業業績が良いと、当然悪いよりも固定資産の回収可能性も増えて減損損失の金額が少なくてすみますし、課税所得も増えるので、繰延税金資産も多く計上出来ますが、将来の業績の結果はその時にならないと分からないため、あくまで今時点では仮定に過ぎません。

しかしながら、この御時世ではコロナがいつ収束するかも分からないため、将来の見通しが非常に立ちづらい状況にあります。そこで、この通達では、設定された仮定が「明らかに不合理である場合」に該当しないことを確かめることになるとしており、「企業の事業活動にマイナスの影響を及ぼす情報及びプラスの影響を及ぼす情報の双方を含む入手可能な偏りのない情報を総合的に評価して、悲観的でもなく、楽観的でもない仮定に基づく企業固有の事情を反映した説明可能な仮定になっていることを検討した上で、会計上の見積りが実施されているかを検討することに留意する必要がある。」という事です。仮定を出来るだけ裏付ける情報を集めて想起される複数シミュレーションをしたりと頑張っても外部環境次第で仮定通りに行かず結果はがらっと変わる可能性は多分にあるため、かなりざっくりいうと頑張って検討するのは当然今まで通りだけど、結果がどう出てもこの御時世仕方ないよねという事なんでしょうかね。

上場株式の減損

コロナの影響で上場株式の時価は下落していますが、ここで上場株式についての減損処理が必要になる会社も出てきているのでは無いでしょうか。金融商品会計基準によると、時価のある有価証券について、時価が著しく下落した場合は減損処理が必要であり、時価が取得原価に比べて50%程度以上下落した場合には「著しく下落した」ときに該当し、合理的な反証が無い限りにおいて、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならないとされています。

一方、税務上で損金算入するには上記おおむね50%の下落に加えて、近い将来その価額の回復が⾒込まれないことが必要となります。(基本通達9-1-7)この点、回復可能性の見込みについて、税務通信の3598号にも出ていましたが、平成21年4月に国税庁から出されたQ&Aにより、監査人のチェック及び、継続適用により回復可能性の判断基準は税務と会計一致でOKとなっています。

つまり、株価が概ね50%を下回る際には、上場企業等であれば金融商品会計の減損処理に従う必要があり、合理的反証が無い限りには回復見込みが無いとされますが、その適用については当然監査人のチェックを受けます。監査人がチェックし、会計上認められた減損処理は近い将来回復見込みが無いものとなり、税務上の要件も満たすという事でしょう。

差額原価と差額収益

扱っている製品の中で取捨選択を迫られた際に、単純に財務会計の範疇で計算された原価をベースとした判断は、かえって会社をより苦しくする結果となる事があります。ある経理担当者から、利益率改善のために製品を絞らないといけないと幹部陣は考えているが、社長からは製造業は作ってなんぼだと言われて判断できないという話をされたことがあります。これを聞いて経営者は何となくでも感覚として持っているという事なんだなと思った事があります。

つまり、担当者としては、足を引っ張っている製品からは撤退しないといけないと考えている一方で、経営者はそんな事をしてリソースを別に振り向けられなければ抱えている固定費をどう賄うのかという事を感覚的に言っているというところでおそらく話が先に進まない状態になっているのです。

こういった時は、差額原価と差額収益を出してみていくつかのケースを想定してみると良いのかも知れません。当然といえば当然なのですが、ある製品から撤退した場合には、当該製品の売上は下がります。ただその際に、それに紐づいて下がる費用と撤退したとしても依然としてかかる費用の両方があるので、紐づいて下がる費用を抜き出し、失う売上と下がる費用を比べてみてどうか、もし代替的な売上が見込めるのであればそこに浮いたリソースをあてた場合の案も作って比べる。といったような事をしてみて、どの製品から撤退するのか、しないのか、どういった代替案があるのかという事を差額原価と差額収益から協議する事も必要かと思います。

予算

予算に関して策定されている会社は多いと思いますが、その予算に対してのコミットという点では、各社やはり三者三様です。

予算を策定する目的からして、目標値としての意味合いをもたせたり、金融機関向けにしょうがなく作っていたりと様々なので当然なのですが、せっかく作る以上は会社のために有効活用していきたいものです。

策定の仕方に関しても、経営層のみでトップダウンで決めてしまうパターンもあれば、ボトムアップで現場から上がったものをただ集計するパターンもありますが、両者の関与が無いと前者であれば現場感覚から乖離した達成不可能なノルマとして独り歩きしてしまったり、後者だけだと逆に達成確実な過度に保守的な予算となる恐れを招きます。そうなってしまうと予算としての効能は薄れてしまうので、経営層は例えば予算策定において自社として外せない計数的なポイントを決めて、そのポイントを外さないような詳細を各部署から上げて貰い、協議しながら固めるという形が両者納得感のある予算となり良いのでは個人的には思います。