計算書類の承認

株式会社の機関設計は会社法になってから、取締役会や監査役を設けないといった商法時代よりも柔軟な設計ができるようになっていますが、その機関構成によって決算承認プロセスも異なるものになってきます。

商法時代の株式会社の必要機関をベースとすると、まず計算書類について監査役の監査を受けることになります。そして、監査で特に問題が無ければその後取締役会の承認を経て株主総会へ提出され、株主総会の承認を経るというプロセスになります。(会社法第436条1項、2項、438条1項3号、2項)

上記の会社が会計監査人設置会社で計算書類が無限定適正意見等の要件を満たせば株主総会の承認は不要となり、株主総会へは報告で足りることになります。(会社法第436条2項、439条)

ここで、取締役会設置会社では無く、監査役を置かない会社の場合は監査役監査は行われず、取締役から株主総会へ提出された計算書類は株主総会での承認を経ることになります。(会社法第438条1項4号、2項)

潜在株式調整後1株当たり当期純利益

会社が新株予約権等のワラントを発行している場合に、当該権利の行使を仮定することにより算定した1株当たり当期純利益が潜在株式調整後1株当たり当期純利益です。新株予約権の行使金額が株価を下回るような場合においては、権利の行使者は既存の株主よりも安く株式が手に入る一方、既存の株主にとっては逆に自分の株式の価値が希薄化してしまう事になります。

このことは1株当たりの利益についても同様であり、潜在株式調整後1株当たり当期純利益が1株当たり当期純利益を下回る場合、つまり潜在株式に希薄化効果がある場合は有価証券報告書等において開示する必要があります。

上記が潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算出するための式になります。ここで、分母の普通株式増加数の算定については下記の (1) から(2)をさし引いて算定する事になります。

(1) 希薄化効果を有するワラントが期首又は発行時においてすべて行使されたと仮定した場合に発行される普通株式数

(2) 期中平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数(ワラントの行使により払い込まれると仮定された場合の入金額を用いて、当期にワラントが存在する期間の平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を算定)

つまり、上記から行使価格≧平均株価であれば普通株式増加数は0以下となり希薄化効果は無しとなりますが、行使価格<平均株価であれば正の値となり、希薄化効果はありとなる事になります。

課税文書

印紙税法第3条は、「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。」となっており、課税文書の作成者は印紙税を納める必要があります。

そして、印紙税法基本通達第44条に「法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。」とあり、ここで課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載とあるので、電子文書にしたら印紙税が不要なのではという話になるのですが、実際国税庁HPの文書回答事例において、注文請書をPDFファイル等の電磁的記録に変換し、電子メールを利用して送信する場合に、「たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならない 」との回答をしているので、紙での契約をせずに電子契約にすることにより印紙税を浮かせることが出来ます。

一方で、電子契約の場合に法的効力を持たせることを考えると、それはそれでお金が掛かるため、結果的にどちらが良いかという話もあります。電子契約にせずとも、例えば請負加工契約を結ぶ際に先に基本契約にて引受数量を記載せずに単価のみ記載しておき、後で別の文書にて加工数量の取り決めをすれば、課税物件表の適用に関する通則4ホ㈡により課税文書である基本契約から単価を引用する事が不可となり、加工数量の取り決め文書については記載金額の無い文書となるため、1つの契約書に纏めてしまうと数万円の印紙が発生するような場合でも印紙代を節約できるようなケースもあるかと思います。

国外所得の計算

外国税額控除の控除限度額は、ざっくり言えばまず「その期の法人税額×その期の法人全体の所得金額における国外所得金額の割合」で計算されます。(その後、地方法人税、地方税の計算を行う。)控除限度額の計算をする際には国外所得を計算する必要があります。

そしてこの国外所得の計算は、租税条約に定める恒久的施設等の国外事業所等からもたらされた国外源泉所得と、人的役務提供事業の対価や外国法人からの利子や配当等その他の国外源泉所得の合計(法人全体の所得の90%が上限)となります。

上記の国外所得計算の過程において国内源泉所得、国外源泉所得それぞれに明確に紐づかない共通費用や負債利子については合理的に按分する必要があります。例えば共通費用については、原則としては個々の業務ごと、費目ごとに按分して所得計算上考慮する事となりますが、全ての共通費用を一括して按分計算する事も認められています。(基本通達16-3-12、16-3-19の3)

改正電子取引情報保存制度

電子取引情報保存制度の改正により、令和4年1月の電子取引からは、 紙出力保存の代替措置は廃止され、原則通り電子データでの保存が義務付けられます。電子データは検索要件等を満たす形で保存する必要があり、満たしていない場合には、青色申告等の承認取消しとなる可能性もあるとのことです。

この電子取引には、例えばメールでやり取りするPDFの請求書等も含まれ、保存する際には少なくとも「取引等の年⽉⽇」、「取引⾦額」、「取引先」により検索できる状態で電⼦データを保存する必要が生じ、受信メールをそのまま保管しておいてそれを持って保存という事にはならないようです。

一方で課税仕入れ等の事実を証する請求書等について、消費税の仕入税額控除を受けるための紙での保存という原則については現状では変わらないですが、電子データのみが提供された場合は例外が認められるやむを得ない理由となるため、わざわざ電子データで保存しているものを印刷して紙で保存する必要までは無いようです。

当該改正について、国税庁に詳細を聞いてみましたが現状はどの程度の水準を満たせば良いのか等についてまだ何も下りて来ていないので現時点では詳細については何とも言えないという事でした。

重要な会計上の見積り

2021 年3 月31 日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が強制適用となり、それに伴い3月決算の上場企業は計算書類や有価証券報告書への当該注記の記載が必要となります。

そもそもの目的としては第4項に記載されており、それは、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目についての財務諸表利用者への有用な情報開示です。

具体的には、第5項や第7項で当該識別した項目(通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債)、財務諸表への計上金額を注記する旨の記載があり、第8項で財務諸表利用者の理解に資するその他の情報の例示が記載されています。

識別項目と計上金額は必須のように読めますが、第8項記載のその他の情報については第31項にてあくまで例示であり、注記する事項はこれに限らない旨の記載があります。

とは言え記載事例が出て来るとそれを他社事例として利用する会社も多いと思うので、ある程度記載内容は似通ったものになっていくような気もします。経団連の会社法ひな型では繰延税金資産でしたが、識別項目として選択されるのが多くなるのはやはり減損絡みで固定資産とかのれんになるんではと考えます。