潜在株式調整後1株当たり当期純利益

会社が新株予約権等のワラントを発行している場合に、当該権利の行使を仮定することにより算定した1株当たり当期純利益が潜在株式調整後1株当たり当期純利益です。新株予約権の行使金額が株価を下回るような場合においては、権利の行使者は既存の株主よりも安く株式が手に入る一方、既存の株主にとっては逆に自分の株式の価値が希薄化してしまう事になります。

このことは1株当たりの利益についても同様であり、潜在株式調整後1株当たり当期純利益が1株当たり当期純利益を下回る場合、つまり潜在株式に希薄化効果がある場合は有価証券報告書等において開示する必要があります。

上記が潜在株式調整後1株当たり当期純利益を算出するための式になります。ここで、分母の普通株式増加数の算定については下記の (1) から(2)をさし引いて算定する事になります。

(1) 希薄化効果を有するワラントが期首又は発行時においてすべて行使されたと仮定した場合に発行される普通株式数

(2) 期中平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数(ワラントの行使により払い込まれると仮定された場合の入金額を用いて、当期にワラントが存在する期間の平均株価にて普通株式を買い受けたと仮定した普通株式数を算定)

つまり、上記から行使価格≧平均株価であれば普通株式増加数は0以下となり希薄化効果は無しとなりますが、行使価格<平均株価であれば正の値となり、希薄化効果はありとなる事になります。

改正電子取引情報保存制度

電子取引情報保存制度の改正により、令和4年1月の電子取引からは、 紙出力保存の代替措置は廃止され、原則通り電子データでの保存が義務付けられます。電子データは検索要件等を満たす形で保存する必要があり、満たしていない場合には、青色申告等の承認取消しとなる可能性もあるとのことです。

この電子取引には、例えばメールでやり取りするPDFの請求書等も含まれ、保存する際には少なくとも「取引等の年⽉⽇」、「取引⾦額」、「取引先」により検索できる状態で電⼦データを保存する必要が生じ、受信メールをそのまま保管しておいてそれを持って保存という事にはならないようです。

一方で課税仕入れ等の事実を証する請求書等について、消費税の仕入税額控除を受けるための紙での保存という原則については現状では変わらないですが、電子データのみが提供された場合は例外が認められるやむを得ない理由となるため、わざわざ電子データで保存しているものを印刷して紙で保存する必要までは無いようです。

当該改正について、国税庁に詳細を聞いてみましたが現状はどの程度の水準を満たせば良いのか等についてまだ何も下りて来ていないので現時点では詳細については何とも言えないという事でした。

欠損填補

無償減資でも書きました減資により欠損填補を行う際の手続きに関してですが、資本金の取崩しなのか資本準備金の取崩しなのか、欠損の範囲内の取崩しなのか否か等によっても手続きは変わってきます。

まず資本準備金の取崩しに関しては、会社法448条、449条により株主総会の普通決議(一定の場合は取締役会決議)、債権者保護手続きが必要となりますが、法務省令で定められた方法で算定された欠損の額の範囲内であれば債権者保護手続きも不要となります。

資本金を取り崩して欠損填補を行う場合には原則として特別決議が必要ですが、欠損の範囲内の取崩しであれば定時総会の普通決議でも可能です。また、資本準備金と異なり、欠損の範囲内の取崩しであっても債権者保護手続きは必要となります。(会社法309条1項、449条)

因みに会計上は資本利益区分の原則により、欠損の額を超えた取崩しを行ったとしても利益剰余金をプラスの値にする事は出来ず、資本内での取崩しとなります。因みに欠損の範囲内での補填が認められる理由としては「将来の利益を待たずにその他資本剰余金で補うのは、払込資本に生じている毀損を事実として認識するものであり、払込資本と留保利益の区分の問題にはあたらない」という考えからのようです。(自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準 第61項)

他勘定振替高

他勘定振替高は、従来であれば売上原価として売上に対応する費用となるべき仕入が、研究開発や見本として使われた場合や、例えば災害等の異常な原因により使用される事無く大量に廃棄となった場合等に、売上と対応するべき売上原価から、販売費及び一般管理費や特別損失等の異なる損益区分に振替えるために使用される勘定科目です。

仕入であれば仕入高を直接貸方減額して上記の異なる損益区分へ振替を行ったとしても、利益計算上でおかしなことに直接なる訳では無いのですが、それをしてしまった場合、販売管理システムで認識している仕入の計上額と、会計システムで計上されている仕入の計上額について整合性が取れなくなってしまったりといった管理面で不都合が生じてしまう事が起こり得ます。

またそれは当初売上用、研究開発用と言った具合に厳密に分けて仕入を行っている訳では無く、一度仕入として処理した中から研究開発で一部使う、見本として使うといった事実を表すためということもあります。

監査上の留意事項(その7)

2021年3月2日に新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その7)が日本公認会計士協会から発出されています。

「本留意事項は、留意事項(その2)において示した会計上の見積りに関する監査上の留意事項について、現在も依然として留意すべきことを改めて周知するためのものである。」とされている通り、企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果としての乖離は「誤謬」に当たらない。という事や、過度に楽観的でも悲観的でも駄目だという点に関しては昨年に発出された留意事項と変わらないと感じます。

加えてとして、新型コロナウイルス感染症の拡大が企業の業績や財政状態に与える影響が業種や企業によって様々であること等から、経営者及び監査役等と通例よりも注意を払って適時かつ適切なコミュニケーションを図るよう求めるとされています。

会社法ひな型改訂

経団連公表の会社法のひな型について2016年以来の改訂がされたようです。「(改訂版)公表にあたって」では、2019年12月の会社法改正に伴い、会社法施行規則等が改正されたこと、「時価の算定に関する会計基準」「収益認識に関する会計基準」「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の策定に伴い、会社計算規則が改正されたこと等から、所要の修正を行いました。と書かれています。

上記のような会計基準が出たことに伴って注記項目が増えたり、記載内容が変更となったりといった計算書類部分での変更もありますが、事業報告部分での変更もあり、事業報告部分では、「事業年度中に会社役員(会社役員であった者を含む)に対して職務執行の対価として交付された株式に関する事項」、 「補償契約に関する事項」、「役員等賠償責任保険契約に関する事項」、「業績連動報酬等に関する事項」等が新設されています。

上記の「事業年度中に会社役員 (会社役員であった者を含む) に対して職務執行の対価として交付された株式に関する事項」はあくまで事業年度中に交付された場合が対象となり、事前交付型の譲渡制限付株式は制限解除がされていない場合でも交付されていれば記載の対象となるとの事です。

自己株式の会計処理

自己株式の会計処理については、自己株式等会計基準にその処理が定められています。まず取得時においては、会社法の考え方と同様に株主に対する金銭の交付という考えから、取得原価をもって純資産の部から控除する事となります。付随費用についてはあくまで株主との間の資本取引では無いことから営業外費用としての処理となります。

処分時の処理としては、処分した自己株式の簿価とその対価の差額について、自己株式処分差益(差損)として処理を行う。この自己株式処分差益(差損)はその他資本剰余金であり、自己株式処分差損が発生した結果、会計期間末にその他資本剰余金の残高が負の値となればその他利益剰余金への振替が必要となる。

償却時の処理についても、償却する自己株式の簿価をその他資本剰余金から減額する処理を行う。その結果会計期間末にその他資本剰余金が負の値になった場合のその他利益剰余金への振替は上記処分時と同様である。

雇用調整助成金の計上時期 改

2020年7月28日に記載しました「雇用調整助成金の計上時期」で、雇用調整助成金の計上時期については原因となった休業の事実があった日の属する事業年度にて、確定していない場合でも助成金を見積って計上という事を記載しました。

しかしながら2月26日に更新された国税庁の「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 」において、「法人が交付を受ける助成金等の収益計上時期の取扱い」が追加されており、コロナ禍の特例措置による雇用調整助成金に関しては交付決定日の属する事業年度に収益計上するという上記と異なる取り扱いとなる旨が公表されましたので、少し遅くなりましたが記載しました。

FAQによると、「経費を補填するために法令の規定等に基づき交付されるものであり、あらかじめその交付を受けるために必要な手続をしている場合には、その経費が発生した事業年度中に助成金等の交付決定がされていないとしても、その経費と助成金等の収益が対応するように、その助成金等の収益計上時期はその経費が発生した日の属する事業年度として取り扱う」となっています。

つまり、通常の雇調金ではあらかじめ「計画届」の提出の手続をとり,同助成金による補てんを前提に休業手当が支給されることから、休業手当(費用)と雇調金(収益)との時期的対応を図る必要があるが、特例措置により、「計画届」が不要となっているため、原則通り交付決定日の属する事業年度に収益計上することになるという事のようです。

資産除去債務

資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生 じ、当該有形固定資産の除去に関して法令又は契約で要求される法律上の義務及びそれに準ずるものをいう。と会計基準で定義されています。

例えば不動産を賃借して内部造作を行った場合の契約終了時の原状回復の義務のようなものが上記の法令又は契約で要求される法律上の義務にあたりますのでそのような場合、資産除去債務の計上が必要となります。そして、負債計上した資産除去債務については見積り計上となりますので、当該見積り額については実際の義務履行に際しての実際の撤去費用とぴったりと一致する事はまず無いかと考えられます。

そして当該差額が生じた場合には会計基準の第15項において、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上する。とされていますので、資産除去資産の償却額と同様の区分に差額も計上するのが原則とされています。但し、例外として第58項において、当初の除去予定時期よりも著しく早期に除去することとなった場合等、当該差額が異常な原因により生じたものである場合には、特別損益として処理することに留意する。とあり、例外として特別損益として処理する事になる可能性も言及しています。この著しく早期に除去という一例は、時の経過による資産除去債務の調整が進んでいない事が主な要因として差額が発生した場合という意味なのでしょうか。因みにこの異常な原因についてはそれが見積りの誤りに基づくものであれば特別損益では無く、過年度遡及修正の対象になりますので見積り誤りは含まれない事に留意が必要です。

減価償却不足額

固定資産の減価償却をする場合に、会計上の償却費と税務上の償却費と異なる場合があります。例えばそれは、会計上の償却費はその固定資産の実態に見合った耐用年数を設定して行い、税務上の償却費は法定の耐用年数を使用しないといけないために耐用年数が異なる事により生じる事になります。

ここで、多いケースとしては会計上の償却費>税務上の償却費という形かと思うのですが、この場合は償却超過額となり、翌期以降に超過額が繰り越されたうえで、税務上の償却費>会計上の償却費となった期において、その差額か超過額かどちらか小さい額が税務上の損金となる事になります。

逆に会計上の償却を行わなかった場合のように、税務上の償却費が大きくなった場合は償却不足額が発生する事になります。その場合には上記のように償却超過額がある場合にはその範囲で損金算入となりますが、超過額が無い場合や超過額を超える不足額となった場合には、超過額発生時の場合のように翌期以降で超過額が発生したとしてもそれに充てて損金算入する事はできません。しかしながら、永遠に損金に出来ない訳ではなく、除却した場合や耐用年数経過後には損金算入する事が出来るようになります。