監査上の留意事項(その7)

2021年3月2日に新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その7)が日本公認会計士協会から発出されています。

「本留意事項は、留意事項(その2)において示した会計上の見積りに関する監査上の留意事項について、現在も依然として留意すべきことを改めて周知するためのものである。」とされている通り、企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果としての乖離は「誤謬」に当たらない。という事や、過度に楽観的でも悲観的でも駄目だという点に関しては昨年に発出された留意事項と変わらないと感じます。

加えてとして、新型コロナウイルス感染症の拡大が企業の業績や財政状態に与える影響が業種や企業によって様々であること等から、経営者及び監査役等と通例よりも注意を払って適時かつ適切なコミュニケーションを図るよう求めるとされています。

被用者保険の適用拡大

令和2年5月29日、「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立し、6月5日に公布されましたが、これにより社会保険や厚生年金の適用対象となる範囲が拡大されます。

ざっくり言えば、①週労働時間が20時間以上②月額賃金8.8万円以上を満たす従業員について、これまで従業員500人超の規模の会社では被用者保険の加入義務有だったのが、令和4年10月から従業員100人超(令和6年10月から50人超)の規模の会社で加入義務有となります。

また、従来は上記①②に加えて1年以上の雇用見込みという要件もありましたが、当該要件は撤廃され、フルタイムの被保険者と同様、2か月超の雇用見込みの場合に適用対象となります。

そして、従来であればまずは2ヶ月以内の雇用契約を結んで社保の加入については一旦様子見としていたような会社も多いかと思いますが、この2か月超の雇用見込みについても、契約書に更新される場合がある旨の明示がある場合やこれまで実績として更新された実績がある場合は原則として当初から適用となるようです。

適用範囲が拡大される場合の影響としては、所得税との絡みである程度限られるような気がしますので、特に派遣会社等はどちらかと言えば2か月超の雇用見込みの影響の方が大きいんじゃないかと思っています。

続・市街地価格指数

3月12日に書きました「市街地価格指数」において、取得した時期が遠い過去等の理由で取得価額が分かる資料が無い場合の不動産の取得費を市街地価格指数を用いて計算する手法ですが、その後自分で調べたりベテランの税理士先生に話を聞いたりしてある程度使い方等が分かりましたので不十分かも知れませんが備忘します。

  • 当然の事ながらあくまでまずは当該関連資料(当時の仲介料、借入金関係資料、納税者の手控え等)から実額の把握に努めるのが先
  • 購入当時の固定資産税評価額等他の情報と併せた使い方が基本的に必要であり、市街地価格指数を使って算出した数値をそのまま使うのは無理がある
  • 一般的に昭和時代の固定資産税評価額は実際の時価との乖離額が大きいので注意(時価より相当低い)
  • 他に何も取得についての根拠資料が無くても取得価額について納税者の記憶がある程度あればその補足資料として使える可能性はある
  • 実務的な対応として、推定値を若干保守的(低め)に考慮するのも1つの方策

といった感じでしょうか。

会社法ひな型改訂

経団連公表の会社法のひな型について2016年以来の改訂がされたようです。「(改訂版)公表にあたって」では、2019年12月の会社法改正に伴い、会社法施行規則等が改正されたこと、「時価の算定に関する会計基準」「収益認識に関する会計基準」「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の策定に伴い、会社計算規則が改正されたこと等から、所要の修正を行いました。と書かれています。

上記のような会計基準が出たことに伴って注記項目が増えたり、記載内容が変更となったりといった計算書類部分での変更もありますが、事業報告部分での変更もあり、事業報告部分では、「事業年度中に会社役員(会社役員であった者を含む)に対して職務執行の対価として交付された株式に関する事項」、 「補償契約に関する事項」、「役員等賠償責任保険契約に関する事項」、「業績連動報酬等に関する事項」等が新設されています。

上記の「事業年度中に会社役員 (会社役員であった者を含む) に対して職務執行の対価として交付された株式に関する事項」はあくまで事業年度中に交付された場合が対象となり、事前交付型の譲渡制限付株式は制限解除がされていない場合でも交付されていれば記載の対象となるとの事です。

自己株式の会計処理

自己株式の会計処理については、自己株式等会計基準にその処理が定められています。まず取得時においては、会社法の考え方と同様に株主に対する金銭の交付という考えから、取得原価をもって純資産の部から控除する事となります。付随費用についてはあくまで株主との間の資本取引では無いことから営業外費用としての処理となります。

処分時の処理としては、処分した自己株式の簿価とその対価の差額について、自己株式処分差益(差損)として処理を行う。この自己株式処分差益(差損)はその他資本剰余金であり、自己株式処分差損が発生した結果、会計期間末にその他資本剰余金の残高が負の値となればその他利益剰余金への振替が必要となる。

償却時の処理についても、償却する自己株式の簿価をその他資本剰余金から減額する処理を行う。その結果会計期間末にその他資本剰余金が負の値になった場合のその他利益剰余金への振替は上記処分時と同様である。

資料作成ルール

資料作成センスの無い僕が読んだ「外資系投資銀行の資料作成ルール66」という本を読んでのとりあえず基礎中の基礎のエクセル編の備忘録です。

エクセルでの表作成編

  • 行の高さは18統一
  • 背景の枠線(目盛線)は消す
  • 文字のフォントはArialかメイリオ
  • 文字は左揃え、数字は右揃えで表に縦線は使わない
  • 単位だけの列を1列作る
  • ベタ打ち数字は青、計算式結果の数字は黒、ベタ打ちと計算式は混ぜない
  • 重要項目行は薄い背景色でアクセントつける
  • 項目が多い方を縦軸、少ない方を横軸に配置

エクセルでのグラフ作成編

  • 折れ線グラフの主役は暖色系、脇役は寒色系かモノクロ
  • 折れ線単位は縦軸左上、データ名は折れ線の右、グラフ目盛線の本数は3~4本に
  • 圧倒しているなら円グラフで協調、微妙な差なら棒グラフ
  • 項目数が多い時は縦棒ではなく横棒グラフに

以上が本を読む前から既に意識している極少数のものは除いて、備忘しようと思ったルールです。(実際に行うかは未定)

無償減資

コロナの影響により、無償減資を行う会社が増えているようです。無償減資を行う理由としては、マイナスの利益剰余金を補填するいわゆる欠損填補のための減資という点だけでは無く、この際だからという事で新聞に書かれているような税務上のメリットをとるという意味合いも強いのではと思います。減資により、資本金が1億円以下になると、国税(法人税)では15%軽減税率の適用(所得800万円以下)や交際費の800万円までの損金算入が認められる等のメリットがありますが、地方税でも下記のような影響があります。

まず、資本金が1億円超の場合に負担する事になる外形標準課税の適用が無くなります。資本金1億円以下の会社の事業税は(繰越欠損控除後の)課税所得が出ていなければ課税されることは無いのですが、資本金が1億円超の法人は課税所得が出ていなくても、付加価値割や資本割により赤字であっても事業税が発生する事になります。但し、課税所得が多額に発生するような法人では、逆に外形標準課税の対象であった方が有利となる場合もあります。

また、これは単純に資本金のみの金額ではなく、税務上の資本金等の金額と会社法上(会計上)の資本金+資本準備金のいずれか大きい方を基準として使用しますが、地方税の均等割(都道府県民税、市町村民税)も1千万円、1億円、10億円、50億円の各段階で以下か超かによって税額が分かれるので、これも無償減資による欠損填補を行う事により税務上のメリットを受けられることになります。拠点が少ない会社であれば均等割減額のメリットはそれほど影響は大きく無いかも知れませんが、多店舗展開している小売りや飲食店等の多くの市町村をまたがって展開している会社であれば影響は大きくなります。

市街地価格指数

不動産を売却した時に取得費が不明な場合は譲渡収入金額の5%が概算取得費として認められていますが、過去の裁決事例では他のやり方も認められています。

それは、建物は建築物単価を用いて算出しその後減価償却を加味、土地については一般財団法人日本不動産研究所が出版している「市街地価格指数・全国木造建築費指数」という本の統計値を用いて、取得費を当時と現在の価格指数割合を用いて売却価額から推定するという手法です。

平成12年の裁決事例になるようですが、実際に取得に要した金額では無く、あくまで時価相当額になるため、諸々の要因により認められなかった事例もあるようです。確定申告期限が今年も1ヶ月延びたことで、色々考える余裕が出来るのは良いことですが悩ましいところです。

雇用調整助成金の計上時期 改

2020年7月28日に記載しました「雇用調整助成金の計上時期」で、雇用調整助成金の計上時期については原因となった休業の事実があった日の属する事業年度にて、確定していない場合でも助成金を見積って計上という事を記載しました。

しかしながら2月26日に更新された国税庁の「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取扱いに関するFAQ 」において、「法人が交付を受ける助成金等の収益計上時期の取扱い」が追加されており、コロナ禍の特例措置による雇用調整助成金に関しては交付決定日の属する事業年度に収益計上するという上記と異なる取り扱いとなる旨が公表されましたので、少し遅くなりましたが記載しました。

FAQによると、「経費を補填するために法令の規定等に基づき交付されるものであり、あらかじめその交付を受けるために必要な手続をしている場合には、その経費が発生した事業年度中に助成金等の交付決定がされていないとしても、その経費と助成金等の収益が対応するように、その助成金等の収益計上時期はその経費が発生した日の属する事業年度として取り扱う」となっています。

つまり、通常の雇調金ではあらかじめ「計画届」の提出の手続をとり,同助成金による補てんを前提に休業手当が支給されることから、休業手当(費用)と雇調金(収益)との時期的対応を図る必要があるが、特例措置により、「計画届」が不要となっているため、原則通り交付決定日の属する事業年度に収益計上することになるという事のようです。

不動産所得 事業的規模

不動産賃貸事業が事業的規模で行われている場合には、最大65万円の青色申告特別控除が受けられたり、未収家賃が貸し倒れた場合に貸倒損失として経費に算入出来たりと特典があります。

ここで、事業的規模については、所得税法基本通達26-9で原則的には社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより実質的に判定すべきであるとされていますが、形式的な基準も設けられており、下記の何れかを満たせば特に反証が無い限り事業として行われているものとするとされています。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおお  むね10以上であること。

(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

ここで、事業年度の途中で事業的規模に該当しなくなった場合についても、その年の12月31日まで引き続き事業を行っていることが特別控除65万円(もしくは55万円)の要件では無いため、その年については最大65万円の特別控除を受けることが出来ると考えられます。