短期前払費用の特例

法人税法基本通達2-2-14「短期の前払費用」において、「前払費用の額は、当該事業年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、これを認める。」とあり、所得税の基本通達37-30の2においても同様の記載があります。

基本通達に記載の通り、発生主義の観点からも前払費用は通常は支払時に一括して損金算入されるものではなく、費用収益対応の原則から適切な時期に費用計上される類のものです。当該特例はその例外として、継続提供される等質等量のサービスについての簡便的な処理を認めたものであり、適用するにはいくつかの制約があります。

まずは重要性の観点からみて問題ない範囲かという点で、その前払費用が「重要性の原則」から逸脱していないことが適用時の大前提となります。当該重要性は画一的なものではなく、その判断においては金額のみならずその法人の財務内容に占める割合や影響等も含めて総合的に考慮する必要があるとされています。

そして、基本通達にも記載されていますが、処理の継続性が要件として求められます。従来からの経理処理(期間対応)を変更して同特例を適用する場合は、その適用事業年度の前後の事業年度における経理処理の状況や、経理処理の変更を行った「合理的な理由」が必要となります。

この合理的な理由の1つとしては契約に基づく支払方法の変更が例として挙げられます。つまり、月払いだった家賃を年払いに変更した場合等は合理的な理由となりうるとの事です。

節税目的でも行われるこの特例適用ですが、適用においては上記の点に注意が必要となります。

iDeCo

iDeCoは個人型の確定拠出年金のことで、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金の制度です。自分で設定した額の拠出を行い、拠出額の運用方針も自分で決め、その運用結果を60歳以降に一時金もしくは年金という形で受け取る事になります。

運用結果によっては元本割れのリスクもありますが、元本確保型の運用も可能です。ハイリスクな運用程、ハイリターンを得られる可能性がありますが、当然その分損をする可能性もあるという事になります。

ここで、大きなメリットの1つとしては拠出額が全額所得控除の対象になることです。例えば個人事業主の方が加入し、月額6.8万円で12カ月加入(年額81.6万円の拠出)したとして、所得税の区分が10%区分であれば住民税10%と合わせて6.8万円×12カ月×約20%=約16万円/年の税金が軽減されることになります。一方で仮に拠出期間=受取期間が同期間で拠出額と同額を年金として受け取ったと仮定すると、他の所得が国民年金の受給のみであればMAXで約78万円/年の受給になるため、78万円+81.6万円=約160万円の年金受取額となります。現行の制度ではここに110万円の公的年金等控除額、48万円の基礎控除が入るので所得としてはほぼ無くなり、結果的に拠出時の税金軽減が軽減され、老後資金が増えたことになります。また、制度は違いますが、このメリットは小規模企業共済でも同様のものとなります。

実際は運用の巧拙等により拠出額が増減した結果が年金の受給額になりますし、拠出期間と受給期間が一致することは普通は無いので、上記のような仮定通りになることはまずないですが、引退後の所得を考えると所得税の累進課税という性質上、稼いでいるときに拠出し、所得控除を受けて、引退後にその分受け取るという事は老後の事を考えても合理的かと思います。

非常勤役員の社会保険

例えば代表取締役に関して、通達によると「法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。」(昭和24年 保発第74号)という事で、低額の役員報酬であっても報酬が払われていれば健康保険や厚生年金の被保険者となります。

一方で、非常勤の取締役になった場合等はどうでしょうか。この点、非常勤の明確な定義は無いですが下記の点を総合的に考慮し、その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断することになります。(疑義照会2010-77,111)

① 当該法人の事業所に定期的に出勤しているかどうか。
② 当該法人における職以外に多くの職を兼ねていないかどうか。
③ 当該法人の役員会等に出席しているかどうか。
④ 当該法人の役員への連絡調整又は職員に対する指揮監督に従事しているかどうか。
⑤ 当該法人において求めに応じて意見を述べる立場にとどまっていないかどうか。
⑥ 当該法人等より支払いを受ける報酬が社会通念上労務の内容に相応したものであって実費弁償程度の水準にとどまっていないかどうか。

なお、労働保険に関しては原則として役員への適用はありませんが、役員であっても労働者性があるのであれば労災保険、雇用保険ともに適用される可能性があります。

創立費及び開業費

法人を設立するために要する登録免許税や定款認証作成料、設立手続きを専門家に依頼した場合に発生する手数料等は創立費、会社設立後実際に開業するまでに支出する名刺作成や消耗品の購入費用、広告宣伝等の費用は開業費(但し、経常的な費用は除かれます。)となり、それぞれ繰延資産(法人税法施行令第14条1号、2号)となります。

とはいえこれらの繰延資産は均等償却を要するものではなく、税法上は償却限度額はその繰延資産の額(法人税法施行令第64条1項)とされているので、繰延資産の簿価の範囲において、任意で償却費を計上出来ることとなります。

青色申告の届け出を出していれば売上がほとんどない段階で即費用化しても、その分繰越欠損となるため後で所得が出た年度に繰越欠損と相殺出来ますが、繰越欠損は期限がありますし、いつでも任意で償却可能なので当面は繰延資産として資産計上し、事業が軌道に乗った段階で償却した方が安全確実です。

退職所得の受給に関する申告

退職金が会社から支給される場合に、会社に退職所得の受給に関する申告書を提出することにより、様々なメリットを受けることができます。

例えば、提出しなければ退職金の20.42%の源泉徴収が行われることになり、確定申告を行う事で還付の手続きをしなければいけなくなりますが、この申告書を提出していれば会社が退職所得控除まで加味したうえで源泉徴収をしてくれ、確定申告をする必要が無くなります。

とはいえ年末時点でどこかに勤めていなければ、年末調整が受けれないので結局確定申告はする事になるんですが。

人材確保等促進税制

以前中小企業向けの所得拡大促進税制が改正される旨を書きましたが、大企業については賃上げ・生産性向上のための税制が終了しました。一方で雇用関係の制度として、人材確保等促進税制という制度が創設されています。

適用期間は令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間に開始する各事業年度となり、青色申告書を提出する全企業が対象となります。適用要件は新規雇用者給与等支給額(国内新規雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額)が前年より2%以上増えていることで、別途教育訓練費の上乗せ要件もあります。

そして要件を満たした場合の控除額は控除対象新規雇用者給与等支給額(適用年度において、国内新規雇用者に対してその雇用した日から1年以内に支給する給与等の支給額)の15%(上乗せ要件満たすとで20%)となり、法人税額又は所得税額の20%が上限となります。

注意点としては、要件判定の際の新規雇用者給与等支給額と異なり、控除対象新規雇用者給与等支給額では雇用保険の一般被保険者ではない人への給与も含めることと、雇調金やキャリアアップ助成金等の雇用関係の助成金については控除されるという点に違いがあります。また、中小企業では所得拡大促進税制も延長されているため適用することができますが人材確保等促進税制との併用はできません。

収益認識基準適用初年度の期首残高調整

収益認識基準が2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から強制適用されることとなり、会計上は、原則的取り扱い・経過措置にかかわらず、遡及修正により期首剰余金及び貸借対照表の関係科目の金額が変わることになります。

一方で法人税法上は遡及適用という考え方はないため、当然前事業年度末の利益積立金額が当事業年度の期首の利益積立金額と一致することになります。したがって,適用初年度の法人税申告書の別表5(1)の期首現在利益積立金額の箇所で、一定の資産科目または負債科目と繰越損益金の項目の箇所に調整を入れることとなり、期首現在利益積立金額のトータルの数字は、前事業年度末の利益積立金額と同額となることとなります。

つまり例えば出荷基準から検収基準に変更したことにより、売上が500、売上原価が300遡及修正により減額(ここでは税効果等は無視)され、会計上の利益剰余金期首残高が△200修正された場合を考えると、税務上は前期の申告書の別表5(1) 差引翌期首現在利益積立金額に戻すべく、当期申告書の別表5(1)の期首現在利益積立金額の箇所で+200の調整を行うことになります。

リーダー向け社内研修

リーダー向けの社内研修を行いました。人材育成の部署から内容はB/S(貸借対照表)についてでお願いします。という事で依頼がありましたので最初にB/Sとはなんぞやというところから簡単な財務分析の指標の説明及び演習問題、そして最後にその指標を用いた事例検証(粉飾事例)といった具合で進めました。

難しかったのは、研修の対象となる人は普段経理事務をしている訳ではなく、現業部門であったり営業職であったりといった方々だったことです。皆さん利益については常々意識されていてもB/Sという言葉をこれまで聞いた事がなく、当然複式簿記の概念自体も分からないためB/Sとはなんぞやという初っ端の説明の部分から皆さん一様に顔をしかめていたので、一瞬どうしようかと思いました。

しかしながら進めていくうちに全て理解できている訳ではないにしても、問題演習等では割と正解されていましたし、後半は体力的に厳しそうでしたが最後まで何とかくらいついて来て貰えたかと思います。今回は財務的に安定していることの重要性、また、結局は利益を上げるという事が財務の安定に繋がっていく事等とともに会社で重要視している経営指標についても再度改めて説明をする機会となったのでやって良かったと手前味噌ながら思います。

児童手当

児童手当は、日本国内に住民登録のある中学校終了までの児童を養育する場合に、その養育者に児童手当法に基づき支給されるものです。児童手当は1月あたり、3歳未満であれば1人15,000円、3歳以上は1人10,000円(但し3歳から小学生までの第3子以降は1人15,000円)が支給され、10月、2月、6月にそれぞれ4か月分ずつが支給されます。一方で所得制限もあり、前年が所得制限限度額以上であれば1月当たり、一律1人5,000円の支給となります。

ここで、この所得制限限度額については、世帯単位ではなく、通常は世帯の中で一番所得が多い人の所得が対象となり、限度額は622万円に扶養親族の人数×38万円(老人扶養親族の場合は44万円)を加えた金額となります。

所得額については児童手当法施行令第3条に定めがありますが、所得税や住民税の計算における所得計算とは異なるので注意が必要です。特に、所得控除については医療費控除やひとり親控除等は所得税の計算におけるものと同様ですが、社会保険料控除や生命保険料控除、基礎控除等がありません。(逆に施行令に定める控除8万円があります。)

つまり、所得税の計算における所得を基準に所得制限限度額を下回っていると考えていたとしても、児童手当においては実は限度額を超えてしまっていて受給額が少なくなるということが起こり得ますので注意が必要です。

譲渡制限付株式(実務対応報告第41号)

2020年1月31日付の譲渡制限付株式で書きました処理方法ですが、2021年3月1日以降に生じた取引について、実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」にて取り扱いが明確化されました。

経済産業省の「「攻めの経営」を促す役員報酬」によると、例えば報酬対価としての譲渡制限付株式交付を、事前交付で現物出資型で行う場合には、従前どおり会計上は「前払費用等××/資本××」という処理を行い、基本的に譲渡制限期間を通して前払費用を費用化していくという処理になります。実務対応報告では会社法改正で可能となった無償交付型の処理について記載がされています。

無償交付型の場合、期間を通して費用化する点では現物出資型と変わりませんが付与時の処理としては、新株発行での付与の場合では会計処理は行わず、自己株式の付与の場合は「その他資本剰余金××/自己株式」という処理を行う事になります。

また、費用化する際については、新株付与の場合は「費用××/資本××」自己株式付与の場合は「費用××/その他資本剰余金××」となり、よって未達没収時においては新株付与の場合は無償の自己株式の増加、自己株式付与の場合は付与時の簿価ベースで「自己株式××/その他資本剰余金」という対応分を戻す処理を行うようです。